浄瑠璃物語絵巻

4月某日、私は熱海にいた。

理由はMOA美術館で開催されている『岩佐又兵衛 極彩色ワールド 重文「浄瑠璃物語絵巻」』を見るためだ(現在は終了している)。

MOA美術館は「モアびじゅつかん」と読みたくなるが、正確には「エムオーエーびじゅつかん」が正しい。

これは「Mokichi Okada Association」の頭文字から取ったもので、創設者の岡田茂吉は新興宗教の教祖でもあったそうだ。

駅の北側に桃山坂という坂があり、MOA美術館の看板も出ているのでそれを頼りに歩いて行くことにした。

熱海はとにかく坂だらけの町で、自転車に乗る人がほとんどいないというような話を耳にしたことがあるのだけれども、たしかに自転車に乗っている人の姿をまったく見かけなかったように思う。

Google Mapsを見てこれぐらいの距離なら歩けると思ったのだが、10分程歩いたところで後悔の念が襲ってきた。想像以上の勾配でまるで登山をしているようだ。駅前からバスが出ているので、それに乗るべきだった。しかし、今から引き返してバスを待って美術館に向かったのでは、結局同じぐらいかかえって遅くなってしまうだろう。下調べを怠った昨日までの自分を恨みながら、結局このまま歩いていくことにした。

さらに20分程歩くと白いトンネルがある。

トンネルを抜けてしばらく歩くと…

巨大な白亜の宮殿の様な建物が姿を現した。

坂道を30分程登ってきてへとへとなので、やっと辿り着いたという安堵感に包まれ、眼前の建物はさながら天上の宮殿の様に感じられる。

最初はこれがMOA美術館かと思ったが、どうやらこの建物は宗教施設らしい。これだけの巨大建造物を作れるとは信仰の力とは凄まじいものである。

こっちが美術館

階段だけでもこの豪華さ。どれだけの金額がかかったのかと煩悩たっぷりな疑問が浮かぶ

敷地からは海を見渡せる

美術館の作りそのものが美術品のようだ

この先にお目当ての物が待っている。憧れの人に会う様な期待感に胸が高鳴る

これが長年見たかった浄瑠璃物語絵巻

きっかけは十年以上前に新日曜美術館というテレビ番組で「常盤物語絵巻」という絵を見たことに始まる。非常に生々しい絵に惹きつけられて、その絵を描いた岩佐又兵衛という絵師の本を買ってみた。その本で浄瑠璃物語絵巻についても取り上げていて、若い男女の愛がこれまた生々しい筆致で描かれていることに感激し、いつか実際に見てみたいと思っていたが、それがこの度公開されるということを知って熱海まで駆けつけた次第だ。

物語の内容は牛若丸が15歳の春、旅の途中で長者の娘、浄瑠璃と出会い恋に落ちるというものである

細かい装飾まで丁寧に描かれている。300年以上前に制作されたにも関わらず大変保存状態が良い

就寝中の浄瑠璃の部屋に入る牛若丸。こんなことが許されるのも牛若丸が源氏の一族で尚且つイケメンだからである。地位もなくイケメンでもない者が同じことをすれば即通報されるだろう。時代的に打ち首もあり得るだろうか。

浄瑠璃を口説く牛若。今も昔も口説くのは男の側からが多いのだろう。男はつらい

心を許した浄瑠璃。その表情がなんとも艶かしい。愛に夢中になる若い男女が生き生きとした筆致で描かれている。

長年見たかった絵を目の当たりにして、この十数年間で経験した様々なことが心に浮かんできた。

旅立ちの時。別れを惜しむふたり。私もこの絵と別れるのが惜しく、しばらく立ち止まって目に焼き付けた。

本当はもうひとつ見たい場面があったのだが、何分長い絵巻物なのですべては公開されておらず、見ることができなかった。それはこの絵巻の中でも最もエロティックなシーンなので、見れないのは少し残念ではあったが、とはいえこうして実物を見れたことに感動を禁じ得なかった。

岩佐又兵衛の絵は毎年公開されるそうなので、また温泉にでも入りがてら訪れたいものだ。

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